特別区における公務員採用と給与体系の抜本的改革
専門職の人材確保と人事・報酬制度の構築
第3章:一律の給与形態からの脱却の必要性と「逆淘汰」の危機
特別区では長らく、事務職から技術職、福祉職に至るまで、大枠において統一的あるいは並行して連動する「一律の給料表」を基盤とした制度運用が行われてきた。この一律の給与形態は、「同じ公務員として等しく地域社会と区民に奉仕する」という組織内の強固な連帯感を醸成する上では合理的なシステムであった。
しかし、このシステムは、組織内部の公平性を極端に重視するあまり、組織外部の労働市場における職種間の賃金格差(外部競争力)を完全に無視している。給与とは単なる生活保障ではなく、「その人材が持つ専門スキルに対する市場からの客観的な評価」である。
逆淘汰(アドバース・セレクション)の作動
一律の給与体系を維持し続ける限り、外部の民間市場で高い評価と高給を得られる優秀な専門職から順に公務員という職場に見切りをつけて流出し、結果として、民間市場では同等の給与を得ることが難しい、相対的に競争力のない人材のみが組織内に残留・滞留するという悪循環が生じる。将来にわたって質の高い行政サービスを維持するためには、従来の「内部公平性至上主義」から完全に脱却しなければならない。
第4章:抜本的改革案(1)専門職の給与のベースアップと独立給料表の創設
インフラ・技術人材の枯渇を解決するための最も直接的な処方箋は、専門職に対する大幅なベースアップである。これは全職員を対象とした一律のベースアップではなく、専門職のみをターゲットとした独立した制度設計でなければならない。
専門職専用の給料表(スペシャリスト・スケール)の導入
現在の一律の行政職給料表による運用を改め、専門職に特化した新たな給料表(仮称:専門技術職給料表)を条例により新設するべきである。設計思想は以下の通りである。
- 初期段階(初任給・20代)から民間企業に見劣りしない水準に基本給を大胆に設定。
- 年功序列的な昇給カーブを廃し、高度な専門資格の取得やプロジェクトの実績に応じて急角度で昇給する設計。
- 手当ではなく、基本給である「給料」そのものを引き上げるベースアップを実施。
地方公務員法「職務給の原則」の現代的再解釈
専門職のみのベースアップを行うと、「同じ公務員なのに不公平ではないか」という反発が予想される。しかし、これは「職務給の原則」の現代的な再解釈によって正当化可能である。
数十年の都市インフラ設計や高度なサイバーセキュリティ構築といった業務は、一般的な行政手続きとは次元の異なる専門的知見と重い責任を伴う。市場における「代替可能性の低さ」を客観的指標として組み込み、代替可能性が極めて低い専門職の給与を高く評価することは、職務給の原則を現代の職務要件に合わせて厳格に適用するものに他ならない。